橋本病(慢性甲状腺炎)とは
甲状腺ホルモンの分泌が低下する病気で最も多いのが「橋本病」です。
男女比は1:10で、若い世代から中高年まで幅広い年代の女性に多く、成人女性の約10人に1人の割合でみられます。
甲状腺ホルモンの産生に関わるサイログロブリンというタンパク質や甲状腺ペルオキシダーゼという酵素に対する抗体ができ、免疫をつかさどるリンパ球が甲状腺に侵入して、甲状腺の細胞を攻撃して傷つけます。
はじめのうちは甲状腺機能が低下しておらず、自覚症状はあらわれません。
甲状腺の破壊が進むと、甲状腺ホルモンを十分に産生できなくなり、からだにさまざまな不具合が生じるようになります。
橋本病の症状

病状が進むにつれ、甲状腺が次第に大きくなり、首が腫れてきます。
逆に甲状腺が縮んで小さくなる場合もあります。
甲状腺ホルモンが不足すると、全身の代謝が低くなり、「疲れやすくなる」「むくみがでる」「寒がりになる、冷え性になる」「だるくて眠い」といった症状が現れることが多いですが、他にさまざまな症状が現れることがあります。
高齢者では気力がなくなって、物忘れがひどくなり、認知症と間違えられることもあります。
甲状腺機能が著しく低下すると、体温や血圧が下がって呼吸困難となり、意識が朦朧としたり、意識がなくなることがあります。
「粘液水腫性昏睡」といい、死に至ることもあるため、集中治療室(ICU)での入院治療が必要となります。
甲状腺機能低下症について、きちんと治療をしていれば発症することはありません。
橋本病が仕事に及ぼす影響について
甲状腺の機能が低下すると、仕事のパフォーマンスに影響を及ぼすことがあります。
主な影響として、以下のような点が挙げられます。
- 疲れやすさ・倦怠感:長時間の業務が負担になりやすく、以前よりも疲れを感じやすくなります。
- 集中力の低下:会議や資料作成など、注意力を要する業務でミスが増えることがあります。
- 眠気・だるさ:日中に強い眠気を感じることがあり、作業効率が低下する可能性があります。
- 気分の落ち込み:意欲が低下し、ストレスを感じやすくなることがあります。
- むくみや冷え:デスクワークで長時間同じ姿勢を続けると、むくみが悪化することがあります。
しかし、適切な治療(甲状腺ホルモン薬の服用)を継続することで、これらの症状を抑え、普段と変わらない生活を送ることが可能です。
仕事に支障を感じた場合は、医師と相談しながら治療や生活習慣を調整することが大切です。
橋本病の検査と診断
血液検査
血液検査で「甲状腺ホルモン(FT3、FT4)」と「甲状腺刺激ホルモン(TSH)」を測定し、甲状腺機能を調べます。
橋本病の人の7~8割は、甲状腺ホルモンと甲状腺刺激ホルモンが正常で、甲状腺機能の低下がみられません。
また、「抗サイログロブリン抗体(TgAb)」や「抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)」を測定し、甲状腺対する免疫反応を調べます。
ほぼ全例で、TgAbもしくはTPOAbが陽性になります。
超音波検査
超音波検査で甲状腺全体の大きさ、甲状腺内部の状態などを調べます。
橋本病の治療
甲状腺機能が低下している場合は、「レボチロキシン(製品名:チラーヂンS)」という甲状腺ホルモン薬を服用し、不足しているホルモンを補います。
レボチロキシンは、体内で作られる甲状腺ホルモンと同じ成分を化学的に合成したもので、適量を服用していれば副作用はほとんどなく、妊娠中や授乳中でも安心して飲んでいただけます。
服用を始めて1~4か月くらいで甲状腺ホルモンが正常になり、症状はおさまっていきます。
甲状腺ホルモン薬は、橋本病の原因を治療する根治療法ではないため、基本的には生涯のみ続けるものと考えてください。
甲状腺ホルモン薬は消化管から吸収されて血管に入ります。
そのため、食事やサプリメント、他に服用する薬の影響によって効果が弱くなることがあり、服用するタイミングに注意が必要です(詳しくはこちらをご覧ください)。
橋本病と診断されても、甲状腺機能が低下していない場合は治療の必要はありません。
ただし、将来甲状腺機能が低下する可能性があるため、半年から1年に1回程度の間隔で定期的に受診して、甲状腺機能検査を受ける必要があります。
橋本病と妊娠
甲状腺ホルモンは妊娠の成立や維持、胎児の発育に必要で、甲状腺ホルモンの不足は「不妊」「流産・早産」「妊娠高血圧症候群」などの原因になることがあります。
妊娠を希望する場合は、妊娠前から甲状腺機能を正常に保つ必要があり、甲状腺機能が低下している場合は甲状腺ホルモン薬(チラーヂンS)を服用します。
甲状腺機能の調整は、甲状腺刺激ホルモン(TSH)を指標に行います。
通常のTSHの基準上限値は 4.23μU/mLですが、それより低い 2.5μU/mLを上限値として甲状腺ホルモン薬の服用量を調整します。
妊娠成立後
妊娠成立後は、妊娠の維持や胎児の発育のため、必要とする甲状腺ホルモンの量が増えるので、甲状腺ホルモン薬を増量します。
また、妊娠をきっかけに甲状腺ホルモン薬の服用を始めることもあります。
妊娠初期は4週ごと、その後は妊娠30週前後に受診して、甲状腺機能を確認します。
出産後
出産後は、甲状腺モルモンの必要量が妊娠前の状態に戻るため、増量していた甲状腺ホルモン薬は減量または中止します。
授乳中も、甲状腺ホルモン薬は問題なく服用できます。
注意すべきこととして、出産後に甲状腺機能の異常を来すことがあります(詳しくはこちらをご覧ください)。
橋本病でやってはいけないこと
ヨウ素の過剰摂取を避ける
ヨウ素をとり過ぎると、甲状腺機能低下症になることがあるので注意しましょう(詳しくはこちらをご覧ください)。
チラーヂンS(レボチロキシン)服用時の注意
薬の吸収を妨げる可能性があるため、食物繊維・大豆製品・乳製品・コーヒーの摂取は控えましょう。
喫煙をしない
喫煙は甲状腺機能低下症を悪化させるため、禁煙を推奨します。
※タバコの煙に含まれるチオシアネートが、甲状腺へのヨウ素の取り込みを阻害し、ホルモンの合成を抑えてしまいます。
橋本病に伴う病気
無痛性甲状腺炎
橋本病の人で、一時的に血液中の甲状腺ホルモンが増え、動悸、息切れ、倦怠感など、バセドウ病に似た症状を起こすことがあります。
無痛性甲状腺炎と呼ばれる状態で、出産後に起こることも珍しくはありません。
橋本病の急性増悪
まれですが、急に甲状腺の痛みや発熱などの激しい症状が起こることがあります。
発症初期の甲状腺機能は、甲状腺中毒症、甲状腺機能正常、甲状腺機能低下のいずれの状態もとることがあり、人によりさまざまです。
抗炎症薬やステロイド薬で治療を行いますが、薬が中止できず、手術(甲状腺全摘術)が必要になる場合もあります。
甲状腺の痛みを伴う代表的な病気である「亜急性甲状腺炎」と症状や検査所見が類似する点が多く、鑑別が難しい場合があります。
橋本病の急性増悪では、「TgAbもしくはTPOAbの数値がかなり高い」「痛みの部位が移動しない」「薬を減量したり、中止した時に再発しやすい」ことが典型的な亜急性甲状腺炎の経過と異なります。
軽快後は永続的に甲状腺機能低下症になることが多いです。
悪性リンパ腫
非常にまれですが、橋本病の人は「悪性リンパ腫」になることがあります。
横浜甲状腺クリニックでは、橋本病の診療を行っております

当院には日本甲状腺学会専門医が在籍しており、患者様に的確な診断と治療を提供することをお約束します。
また、病状や治療方針については、専門医がわかりやすく簡潔にご説明し、患者様が安心して治療を受けられるよう努めています。
平日はお忙しい方でも無理なく受診していただけるよう、土曜も18:00まで診療を行っておりますので、気になる症状や心配ごとがあれば、遠慮なくご相談ください。